2021年10月24日「主はあなたを守る方」使徒18:12〜17

序−1905年ギリシヤのデルフォイ神殿遺跡近くにある石切り場で、後にガリオ碑文と呼ばれる碑文が発見されました。この碑文に、今日の箇所に登場するガリオ総督が記されています。それによって、パウロのコリント在住がAD51〜52年と分かるようになりました。このガリオ総督が、パウロの宣教活動に重要な役割を果たすことになります。

T−ユダヤ人による告訴−12〜13
 パウロがアテネからコリントに来てから、数ヶ月が経った頃、アカイヤ州の総督にガリオという人が就任しました。12節。デルフォイで発見された碑文の内容は、クラディウス皇帝に関することですが、そこに「友人ガリオ総督」と記されていることから、AD52〜53年に総督であったことが分かりました。これによってパウロのコリント在留時期が分かり、第2次伝道旅行の期間が判明しました。このガリオ総督は、年代決定に寄与しただけでなく、パウロの宣教のために用いられることになります。
 この人は、ネロ皇帝の教師とブレーンを務めた有名な哲学者セネカの弟です。ガリオも学識と見識を兼ね備えた人でした。当時、魅力的な人格の持ち主、才気溢れる人物として知られていました。
 このガリオがアカイヤ州の総督としてコリントに赴任して来ると、事件が起こりました。12〜13節。ユダヤ人たちは一斉にパウロに反抗して、パウロを捕まえ、法廷に訴えたというのです。どうしてユダヤ人は、数ヶ月も経ってからパウロを告訴したのでしょう。新しい総督が赴任して来たからです。新任なら、事情が分からず、こちらの意のままになる可能性が大きいからです。それも、学者肌の静かな性格なら、勢い込んで訴えれば、訴えを認めさせることができるだろうと目論んだようです。
 次々と人々が信じるようになるのを見ていたユダヤ人たち、いきり立ちながら機会を狙っていたでしょう。7〜8節。新任総督に訴えて、パウロを妨害しようと考えたのです。「この人は、律法に反するやり方で神を拝むよう、人々をそそのかしています」と訴えたのですが、ローマ帝国と言えば、現代の法律にまで影響を与えるローマ法で有名です。ですから、律法と訳されていますが、ここではローマ法のことです。ユダヤ人たちは、パウロがローマの法律に違反していると法廷に訴えたのです。おそらく、ローマの法律に違反して、人々を扇動している、社会を乱していると訴えたかったのでしょう。
 もちろん、まったく偽りであり、その逆です。パウロは人々のたましいの救いと人生の平安をもたらすために、イエス様が十字架と復活を伝えていました。救われた人は、信仰でもって熱心に働き、誠実に生きるようになりますから、社会の安定と繁栄に寄与する者となります。
 考えて見てください。誰かに裁判所に訴えられたら、どうですか。心騒ぎ、不安や恐れが生じて来るのではないでしょうか。そうです。パウロは、コリントに来た頃のように弱く恐れおののいて、またユダヤ人の妨害かやはり無理なのかと落ち込んでしまうかもしれません。「わたしがあなたとともにいるので。あなたを襲って危害を加える者はいない」と主は約束してくださったのではないでしょうかと言いたくなります。
 私たちも、信仰で立ち上がり、順調に進んでいると思っていたのに、問題や困難が起こると萎えてしまい、不安や恐れを抱くかもしれません。しかし、大事なことは、主を信頼し続けることです。主の約束は確かです。主は、主に信頼する者を守る方であり、イエス様を信じる者をわざわいから守ってくださる方だと聖書は教えています。詩篇121:5〜8。

U−ガリオ総督による告訴の却下−14〜15
 では、その後の展開を見てみましょう。14〜15節。ユダヤ人は、このガリオという新任総督を甘く見ていました。皇帝の先生とブレーンをした哲学者、政治家セネカの弟です。舌を巻くような采配です。14節の始めをよく見てください。パウロが口を開いて弁明しようとすると、それを遮っています。それは、いじわるしたのではありません。パウロが弁明を始めたら、訴えを認め、裁判が始まることになります。その前に、彼らの告訴の内容が裁判する対象になるか、判断するためです。
 ユダヤ人の訴えを詳しく聞いたら、不正な行為や悪質な犯罪ではなく、どうやらユダヤ人の用いることばや名称や律法に関する問題であるようだ、パウロがローマ法に違反しているという訴えは、虚偽の告白だと見抜いたのです。訴えを聞いてユダヤ人のことばや名称や律法に関する問題と把握したのは大変な知性と知識です。
 そんなことはローマ法で裁く問題ではないと判断しました。つまり、訴えを却下したのです。裁判として取り上げない判断をしたということです。
 こうして、この人だからこそ、速やかにユダヤ人の訴えを斥ける判断ができました。訴えの内容を聞いてから退けたので、棄却と言うべきでしょうか。ガリオ総督、やっぱり凄い人です。「自分たちで解決するがよい。私はそのようなことの裁判官にはなりたくない」という言い方は、少し皮肉を込めた分かり易い表現です。告訴は却下されたのですから、パウロは、一言も弁明することなく、ユダヤ人の攻撃から守られました。
 重要なことは、このガリオ総督の判断がいわゆる判例となったということです。学識と見識のあるガリオが判断したことなのですから、なおのことその後同じような問題が起こる時、参考にされるでしょう。ですから、ガリオ総督のこの判決は、この時パウロを守ってくれただけではありません。この判例がキリスト教にとって、大きな意味を持っています。キリスト教の宣教が帝国内で認められ、自由に活動できることになるからです。ガリオ総督は、パウロを助けたり、守ったりしたわけではないのですが、主によって用いられたと言うことができます。
 そうです。「わたしがあなたとともにいるので。あなたを襲って危害を加える者はいない」と主が約束されたとおり、守ってくださったのです。このガリオのような例は、主が世の人々を用いて、私たちを守ってくださるということを教えています。たとえ人が、私たちを助けようと意思はなくても、立場上することで、私たちが助けられるということもあります。誰かに出会い、助けられるという日々の出来事も、偶然ではなく、主が働いて守っていてくださると言えるでしょう。イエス様を信じて、救われた者は、そういう存在なのだということを覚えましょう。

V−町の人々による制裁−16〜17
 棄却を言い渡したら、すぐさま裁判場からユダヤ人を追い出しました。16節。諦めないユダヤ人の蒸し返しや抗議を許しません。こういう判断がパウロを守ることになります。ガリオ総督がユダヤ人を法廷から追い出すと、事件が起こりました。17節。この「皆」とは、原文の文法によれば、法廷から追い出されたユダヤ人のことではなくて、法廷の外にいたギリシヤ人の群衆のことです。ギリシヤ人、群衆と訳されている聖書もあります。
 法廷は誰でも見ることができるよう公開されていたそうです。コリントの市民は、ユダヤ人が大騒ぎでパウロを囚人のように引き立てて来たところを見ていました。罪人のように見えないパウロを悪し様に言うユダヤ人の悪態を見ました。明快にその訴えの誤りを指摘して、告訴を退けたガリオ総督の決定も聞きました。新任総督に圧力をかけるようなユダヤ人の傲慢な態度を見ているうちに市民たちは、憤慨し、会堂管理者ソステネを捕らえて、法廷の前で制裁を加えました。これによって、ユダヤ人は、もう市民の前でパウロを妨害して騒ぐことはできなくなります。こうして、市民によっても守られることになります。
 注目すべきは、この制裁について、ガリオ総督は「少しも気にしなかった」ということです。17節。つまり、そのままにさせていたということです。何もしなかったというのも、総督としての判断です。総督の役目としては、止めるべきところですが、ユダヤ人がもう騒がないように、あえてそのままにさせたのでしょう。また騒いだら制裁されることになるぞという警告になります。
 このために、パウロは、この後コリントでユダヤ人の妨害を受けることなく、宣教を続けることができるようになりました。こうして、ガリオ総督によって、パウロの宣教活動が守られて行くことになります。主がガリオを用いて、守ってくださったということです。
 最後にもう一つ注目しなければならないことがあります。なぜ、この会堂司の名前がソステネと分かっているのでしょうか。コリント書を見ると、コリント教会に関係しているパウロの同労者として、ソステネの名があります。Tコリント1:1。驚くべきことに、会堂の指導者としてユダヤ人を扇動してパウロを訴えたソステネは、この事件の後悔い改めてイエス様を信じるようになったのでしょう。どんな人でも希望があります。
 こうして、9〜10節の主の約束通りになりました。ユダヤ人に妨げられずに宣教できるようになりました。ガリオ総督は、自分の知性と良識をもって判断し、総督の仕事をしたまでですが、神様が彼を用いられたのです。私たちのためにも、主は背後で働かれます。私たちのために人々や出来事が用いられます。そう知ると、人や事を見る目が違って来ます。私たちは、自分を守ってくださる主に感謝して、ますます主に用いられて行くことを願います。詩篇121:5〜8。



使徒18:12 ところが、ガリオがアカイヤの地方総督であったとき、ユダヤ人たちは一斉にパウロに反抗して立ち上がり、彼を法廷に引いて行って、
18:13 「この人は、律法に反するやり方で神を拝むよう、人々をそそのかしています」と言った。
18:14 パウロが口を開こうとすると、ガリオはユダヤ人に向かって言った。「ユダヤ人の諸君。不正な行為や悪質な犯罪のことであれば、私は当然、あなたがたの訴えを取り上げるが、
18:15 あなたがたの、ことばや名称やあなたがたの律法に関する問題であれば、自分たちで解決するがよい。私はそのようなことの裁判官にはなりたくない。」
18:16 こうして、彼らを法廷から追い出した。
18:17 そこで、皆は、会堂司ソステネを捕らえ、法廷の前で打ちたたいた。ガリオは、そのようなことは少しも気にしなかった。

詩篇121:5 【主】はあなたを守る方。
【主】はあなたの右の手をおおう陰。
  121:6 昼も 日があなたを打つことはなく
夜も 月があなたを打つことはない。
   121:7 【主】は すべてのわざわいからあなたを守り
あなたのたましいを守られる。
  121:8 【主】は、あなたを 行くにも帰るにも
今よりとこしえまでも守られる。



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